今宵は天使と輪舞曲を。

 彼の尋ねる口調は否定でも肯定もない。ただメレディスの本心を探るものだった。まさに厳格のある主人たる風格を醸し出している。何事にもけっして動じない気質はまさに古くから続く偉大なブラフマン家を今もなお、衰えることなく繁栄させてきた証しなのだろう。

 だからこそ、メレディスは迷うことなく自分の意見を口にすることができる。ブラフマン家が成長を為し遂げられているのはモーリス・ブラフマンの采配力と他人を信用する力があるが故だとメレディスは確信した。
 顔を上げ、モーリス・ブラフマンを見ると口を開いた。
「わたしは――もう、何も失いたくはありません。ひとりの男性として、わたしは彼を、ラファエル・ブラフマン伯爵を愛しています」
 両親と同じように失いたくない。
 この幸せを失うことなく、できるならずっとこの手の中に仕舞っておきたい。メレディスは切に願った。

「この結婚は認めません」
 しかしどんなにメレディスとラファエルが乞うてもレディー・ブラフマンは頑なだった。強い、けれども静かな口調で反対する。

「ですが、母さん。ぼくたちはもう愛し合いました」
 この言葉に反応したのはやはりエミリア・デボネだった。彼女は耳を劈くほどの声を上げるなり失神してしまった。大きな音を立てて床に倒れた。ジョーンとヘルミナは慌てた様子で母親に駆け寄り、事を見守っていた執事(バトラー)の手によってエミリアが客室に運ばれるのに寄り添い、鋭い眼差しで睨みながら退出した。


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