今宵は天使と輪舞曲を。
社交界に出るのならできるだけ目立つ噂は避けなければならない。なにせ彼らは皆ゴシップ好きであり、ブラフマン家ともあろう伯爵家に汚点のひとつでもあれば格好の餌食にするのは分かりきっていることだった。
「それとも、わたしは社交界に出なくても良いっていうことなのかしら?」
わざとらしい瞬きを繰り返し、キャロラインは尋ねた。
そもそも本の虫とも言われていたキャロラインが将来の伴侶を見つけるよう薦めたのは母親レニアが原因だ。当の本人が兄ラファエルの結婚を反対したばかりにキャロラインの人生が一転してしまうのは母親として不本意であるだろう。
レディー・ブラフマンはぐるりと目を回した。彼女に反論できるはずもない。だってキャロラインの言葉はもっともであり、しかし皮肉を言っているわけでもある。たとえ自分にとって不利な出来事でも味方にしてしまう頭の回転の速さはまさに才女だ。そしてユーモアも含んでおり、彼女たちの会話を聞いていたメレディスは自分の口元が緩んでいるのが分かった。
母と子の会話とはこういうものなのだろう。メレディスは二人が羨ましくてしょうがなかった。
いつか自分も、子供ができた時、同じようにこんな会話を楽しんでみたいと心からそう思った。ほぼ無意識的に両手が腹部に触れる。そんな仕草をラファエルは見逃さなかった。
「母さんはメレディスのことを知らなさすぎるだけだ」
ラファエルが口を開き、
「だったら、一緒に馬を走らせに行きましょうよ。彼女、ものすごく馬の扱いが上手なんだから!」