今宵は天使と輪舞曲を。

 キャロラインも発言する。
「それなら儂もしっかり見させてもらったよ。英国騎士も驚くほどの手綱さばきだった」
 モーリスはにっこり微笑んで答えた。レディー・ブラフマンはそんな夫を睨みつけた。ブラフマン家のボスは彼女なのだ。
 メレディスにとって、その光景も新鮮に感じられた。

(もし、ブラフマン家に受け入れてもらえることができればどんなにユニークな暮らしになるのかしら――そんなことは有り得ないのに……)
 メレディスは一度は胸を膨らませたがそれも一瞬のことで、有りもしない世界を夢見たことに失望し、息を詰まらせた。

「貴族の評判なんてまるで当てにはならないのは母さんも理解しているだろう? なにせ彼らの評判の殆どが世俗的なもので何一つ信用に当たらないものだ」
 グランも口を開いた。
「彼らは有りもしない噂話を作ったり、他人のスキャンダルを見つけて自分の方がずっとましだと宥めるのに大忙しなのよ」
 キャロラインは頬を膨らませて兄に同意した。

「彼女を知るには良い機会じゃないか――ミス・トスカ、君は馬が好きだ。そうだね?」
「はい、ミスター・ブラフマン」
「ならば皆で乗馬を楽しんでみてはどうかね?」
 モーリス・ブラフマンは立ち上がり、提案してみせた。
「パパ、ちょっと待って。みんな(・・・)って、レディー・デボネたちも一緒にっていうこと?」
 キャロラインは眉間に皺を寄せる。明らかに歓迎していない様子だ。彼女は父親に表情と声音で伝えた。
「そうだ。だが、もちろん本人たちが嫌がるなら無理には誘わない」


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