今宵は天使と輪舞曲を。

§ 08***趨走。




 表向きには何事もなく三日後の乗馬の日を迎えることになった。

 メレディスたちはヘルミナと馬丁が一緒にいる姿を何回か見たものの、彼女が特に目立った行動をすることもなく、人目を気にする様子もなかった。ただ純粋に馬の扱い方や乗馬の仕方を教えて貰っているのだろうと考えた。けれどもラファエルの見解は違うようで、念には念をということで、メレディスの愛馬であるクイーンの面倒だけは御者に命じた。

 まさかラファエルは彼女が一連の騒動を巻き起こした張本人であると考えているのだろうか。メレディスが知る限りでは、ヘルミナは常に周囲の目に怯えて生きていた。

 たとえ相手が余所者のメレディスであっても、彼女一人になると途端に進言さえできない臆病者だった。その娘が一連の騒動を起こすほどの――況してや人攫いを雇うほどの度胸があるだろうか。さらにはメレディスを不幸に陥れて何の得があるというのか。彼女は常に誰かに虐げられて生きている。それは専ら彼女の体型のせいではあるが、その対象はメレディスが現れたことで解かれたのも事実だ。このままの関係でも問題はないはずだ。

 たしかに、ジョーンやエミリアに人攫いを雇うよう指示されたのであれば理解できる。しかし彼女たちはこの屋敷を離れるのを嫌がっているのは明かで、しかもデボネ家には最早人攫いを雇うだけの資金は持ち合わせていないのが現状だ。


< 337 / 348 >

この作品をシェア

pagetop