今宵は天使と輪舞曲を。
それに、二人は今やブラフマン家男子として唯一の独身であるグランを射止めるのに必死だ。それはメレディスを虐める計画さえも追い着かないほどだった。メレディスからラファエルを奪い返そうという時間も気力も、今のジョーンとエミリアには残されていない。メレディスを痛い目に遭わせても彼女たちには何ひとつとして得などないのだ。
そして当のヘルミナは――といえば、やはり馬丁と一緒だった。彼女はメレディスやジョーンのずっと後ろの方で乗り方を丁寧に教わり、恐る恐る跨る馬に跨る姿が見えた。彼女に用意されたのは乗馬初心者ということもあり、小柄で人懐っこいとされるポニーだ。
そんな馬でいったいメレディスにどんな危害が加えられるだろうか。たとえラファエルが考えるようにメレディスを陥れようとしていても、彼女のあの状態では不可能に近い。
況してや彼女の傍には馬丁がいる。馬丁のボスはヘルミナではなくあくまでもブラフマン伯なのだ。
いくらヘルミナが馬丁と仲が良くなったからといってそれが何になるだろう。
自分はいったい何を警戒していたのだろうか。ヘルミナだって年頃の娘だ。男性に興味を持つのはごくごく自然な摂理だ。ただ今までは社交界の男性限定に絞っていたからこそ、相手が見つからなかっただけだ。
なにせ社交界の男性といえば見栄っ張りで強情で、女性のことをただのお飾りとしてしか見ていない。彼らが望む女性はいつだって表面上だけのものだ。美貌や控えめな性格であったり、いじらしさであったり。彼らの理想の妻としての枠組みではヘルミナは役不足なのだ。