今宵は天使と輪舞曲を。
けれどももっと柔軟な考え方をした男性なら――社交界とは関係のない人間ならば、ヘルミナとの相性は案外良いかもしれない。
ヘルミナの長いものに巻かれる性格でなければ――の話ではあるかもしれないが。
「おい見ろ、雲ひとつない青空が広がっている。今日は実に良い日だ。絶好の乗馬日和じゃないか」
メレディスの思考を遮ったのはモーリス・ブラフマン伯爵だ。栗色の馬に跨ってい先に立つ彼は、満面の笑顔を隣にいる妻のレニアに向けていた。
――とはいえ、彼女の表情は未だ崩れることはない。目尻をつり上げ不服そうにしている。息子の花嫁候補をジャッジするのに忙しいのか、後ろにいるメレディスに向けて神経を尖らせているのがメレディス本人にもよく分かった。
「わたし、緊張するわ」
まるで冤罪にかけられた気分だ。
「何を言っているのよ、貴女らしくない。見てよあの二人! 馬にも性格が悪いって分かるみたいよ、落っこちそう!」
たとえ自分の背後で悲壮感漂う声を張り上げながら伯母のエミリアとジョーンがブラフマン伯爵に用意された馬に気に入られず振り落とされそうになっている姿を見たとしても、今だけはキャロラインと同じように鼻で笑うことすらできない心情だった。
メレディスの不安が限界に達しそうになっている丁度その時だ。御者がミルク色の馬を引き連れてやって来た。
「ああ、クイーン……」
メレディスは自分の気持ちを落ち着かせたいがためにクイーンの頭を撫でると、彼女本人に応えるかのように短く鳴き、頭を振った。