今宵は天使と輪舞曲を。
クイーンを撫でるだけでも気持ちが落ち着く。
メレディスは美しいクイーンを愛でながら、小さく微笑んだ。
「大丈夫だよ、いつもの君なら」
ラファエルは栗毛の雄馬であるカインの手綱を握ったまま、メレディスを元気付けた。
ラファエルが今日というこの日もカインを選んだのも一際温厚であるが故に周囲を見渡しやすいと思ったからだ。
万が一にでもヘルミナがメレディスに何かを仕掛けて来ようとも、沈着冷静なこの雄馬ならばまず間違いはないと計算したからだった。
「ねぇ、競争しましょうよ。あの小高い丘までわたしたちの誰が一番に辿り着けるか」
キャロラインの愛馬は茶色い牝馬だ。クイーンよりもほんの少し体は小さいが、それでも勝ち気そうな目をしている。彼女は右側にそびえる小高い丘を指差した。
「おいおい、正気か?」
「もちろんよ! メレディスはとても素敵な女性だって理解してもらうには丁度良いもの。もちろん、わたしも負けないけれど」
ラファエルは愛馬に跨った負けず嫌いな妹を見上げた。今日の乗馬の目的はメレディスとラファエルの仲を認めさせることだ。けっして馬の足を競うものではない。そうは思うものの、彼はもう限界だった。
「その勝負、乗った!」
言うなり誰よりも真っ先に走り出したグランはデボネ家の人間から逃げるための口実が欲しかったのかもしれない。ジョーンだけならまだしも、母親のエミリアさえにも追いかけられる始末だったから相当なストレスを抱えているのかもしれない。