今宵は天使と輪舞曲を。

「わ、わたし。知らなかったのよ。あの馬はてっきり貴女の馬だと……ちょっと落馬して無様な姿を見せればいいと思って――」
「メレディス!」
 御者と共に愛馬を鎮め終えたキャロラインに駆け寄れば、近くに落ちている細長い葉がついた枝が見えた。馬酔木(あせび)だ。

「いったい何事だ?」
「グランはともかくとしてラファエルはなぜ、あんなに先を急いでいたの?」

 この場を取り囲む様子がおかしいと感じたのだろう。馬から下りたモーリスとレディー・ブラフマンはメレディスたちに歩み寄り、尋ねた。

「馬酔木が仕掛けられていたかもしれないわ」
 キャロラインは持っていた長細い葉が付いた枝を両親に見せた。

「なんですって!? どうしてこれがこんなところに落ちているの? たしかに馬にとって皮膚の寄生虫による駆除剤になるけれど、一歩間違えれば麻酔状態になる危険な植物なのよ!? それくらい御者なら十分知っていますわよね?」
 レディー・ブラフマンは御者を睨んだ。

「どこかの誰かさん(・・・・)が仕込んだかもしれないのよ」

 キャロラインがジョーンを見れば一行は彼女へと注目する。
「――まさかこんなことになるなんて思っていなかったのよ……」
 しどろもどろになって話すジョーンはパニックを起こしている。追い詰められた彼女は小さな子供のようにわあっと泣き出す始末だ。

「いったいどうしたの?」


< 342 / 358 >

この作品をシェア

pagetop