今宵は天使と輪舞曲を。
レディー・ブラフマンが声を荒げていると、馬に乗ったヘルミナが馬丁と一緒にゆっくりこちらへ向かって尋ねた。
キャロラインがヘルミナに説明を終える時間まで待てない。メレディスはクイーンに跨り脇を優しく蹴ると、ラファエルを追うよう促した。
「お前たちは屋敷の中に戻りなさい!」
モーリスは背後に残された愛娘たちに声を張り上げて命じると、レディー・ブラフマンと共にメレディスに続いて息子を追う。
「だめだ速すぎて追いつけない!!」
モーリスの言葉通り、彼らの馬は失速していく。メレディスの背後にいた彼らはあっという間に距離が生まれた。向かう途中でエミリアが横転している姿が視界の端に写ったが今は彼女に構っている暇はない。彼女は未練たらしく何やら叫んでいた。
ラファエルを乗せたカインの姿は木々の枝々に生い茂っている葉に紛れて見えなくなっていく。
「ラファエル!」
メレディスは前に体重を移動させてクイーンを急かした。前方に走る馬が見えたが、残念ながら彼ではなかった。
「メレディス! ラファエルはどうしたんだ? もの凄い早さで走っていったぞ」
グランは速度を落とさないメレディスに並び、尋ねた。
「きっと馬酔木のせいよ」
「馬酔木だって? もしラファエルが操っていないのなら大変だ! この先は崖だぞ!?」
「なんですって?」
「くそっ! この馬では追いつけそうにない」
「わたしが追いかけるわ」
「メレディス?」
グランが止めるのも聞かず、メレディスは手綱を上下に揺らした。