今宵は天使と輪舞曲を。

「お願い、クイーン! もっと早く!!」
 このままではラファエルが振り落とされるか、もしくはカインと一緒に崖から落ちるかのどちらかにひとつだ。どちらにせよふたりの命が危険なのには変わりない。

 メレディスは目を凝らし、前を見据えるが、カインもラファエルも捉えることができない。

 もし、万が一にでもラファエルを失ってしまえば――。
 両親のようにこの世から旅立ってしまったら――。
 そう考えると胸の奥に何とも言えない虚無感があらわれた。
 せっかく見つけた心の拠り所。彼の前でなら自分を飾る必要さえないと思えた。この世でたったひとりのかけがえのない男性。生涯を共にしたいと思ったのは彼だけ。
 こんなに深く異性を想うなんて今までの自分なら考えられなかったことだった。
 ――ラファエルを失いたくない。
 記憶に残るのは、両親が力なく横たわる姿だ。二度と開くことのない、しっかりと閉ざされた目。青白い唇はもう自分の名を呼んでくれることさえもない。
 意図しなくても亡くなった直後の両親とラファエルの姿が重なってしまう。

「ラファエルを失いたくないの、もう大切な人を失うのは十分よ。お願い。助けて、クイーン……」

 メレディスはわあっと泣き出した。クイーンの頭に頬を寄せ、深い絶望と悲しみに襲われていた。すると――クイーンは主人の声に呼応するかのように大きく嘶いた。ほぼ同時に彼を追う速度が上がる。まるで弱音を吐くメレディスを強く励ますかのようだった。


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