今宵は天使と輪舞曲を。

 それはまさにクイーンは暴れ狂うカインの前に見事降り立つことに成功した瞬間だった。ふいに自分の目前まで迫ってきたクイーンに驚いたカインの体が大きく仰け反る。メレディスはラファエルを失いたくない一心で無我夢中だった。素早い動作でクイーンから下りたメレディスは直ぐさまカインの手綱を取った。

「どうどう。良い子ね、静かにして――」
 必死に馬を宥めるメレディスの横から、やがて力尽きたラファエルが地面に落ちた。
 最後にカインが声を上げるとクイーンはより一層、高い声で嘶き、牽制した。
 やがてカインは頭を左右に振って落ち着きを取り戻すと、クイーンは彼に擦り寄り、慰めた。

「ラファエル!」
 カインが鎮まるのを確認したメレディスはすぐさま地面に転げ落ちたラファエルに駆け寄った。彼から短い呻き声が発せられる。

「ラファエル、ラファエル!!」
 メレディスはうつ伏せに倒れるラファエルを仰向けにして打ち所の悪かった部分がないかを確認する。胸に耳を近づければ、心臓が動いているのを確認できた。
 けれどまだ彼が安全だとは確信できない。

「ラファエル、ラファエル!」

 メレディスは引き続き、彼が脳しんとうを起こしていないか、反応が返ってくるまでラファエルの名を呼び続けた。

 閉ざされた瞼が揺れる。
 開いたエメラルドの目はやがて光を宿し、焦点が戻った。

「……メレディス。ぼくは助かったのか……」
「ああ、ラファエル!」

 そこではじめて、メレディスは彼を助けることに成功したのだと理解した。メレディスは大きな声を上げ、泣きながらラファエルの胸に飛び込んだ。



《趨走。・完》
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