今宵は天使と輪舞曲を。

 どうやら周囲にいる貴族たちもメレディスと同じ気持ちのようだ。人々の輪から離れたこの場所にまで羨望(せんぼう)のため息が聞こえてきた。


 やがてキャロラインはモーリスの手から離れ、レニアに変わる。それを合図に、他の貴族たちも円舞曲に加わった。

 そこでメレディスは、ラファエルはいったいどのような女性を選ぶのかと考えた。

 きっと知的でチャーミングな女性に違いない。
 どちらにせよ、壁にへばりついている自分ではないことはたしかだ。


 胸にわずかな痛みが走る。

 なぜ今夜たったひと目ラファエルを見ただけなのに、彼に裏切られたと思うのだろう。

 眉間に深い皺が寄っているのに気がついたメレディスは人差し指で額を擦り、皺を伸ばした。


 その時だ。
 会場の端――つまり自分がいる場所とは反対側から何やら視線を感じた。メレディスが顔を上げると――。

 ああ、なんとうことだろう。

 ひとりの男性がこちら側を見ながら年頃の女性に耳打ちをしている姿が見えた。
 その瞬間、メレディスは体が強張るのを感じた。
 それというのも、メレディスは彼のことを十分知っているからだ。

 彼は――そう。
 メレディスを唯一この世界でただひとり、必要だと言ってくれる男性だった。


 ただし、彼はメレディスのことを、『何もできない愚かな娘』だという解釈で見ているのではあるが――。


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