今宵は天使と輪舞曲を。
ルイス男爵。ピッチャー家の一人息子だ。
彼もまた五年前に両親を流行病で亡くしている。だからだろうか、天涯孤独な身の上のメレディスを庇護することこそ自分がこの世に生を受けた理由だと考えている愚か者だ。
目立ちたがり屋で自意識過剰。
短い刈り込みが入った黒髪に日に焼けた浅黒い肌。筋肉質で分厚い胸板。つり上がった黒い目に大きな鷲鼻。それから分厚い唇。彼の外見のどこを見ても傲慢な部分が滲み出ている。
貴族たちはルイス・ピッチャーをハンサムで凛々しい紳士だと賞賛しているが、メレディスは違った。彼女はルイスを鼻持ちならない男だと思っている。
その彼は今、桃色のドレスに身を包んだ女性に耳打ちを繰り返し、親しげに会話している。
けれども彼の視線はこちらから外さず、メレディスを見つめ続けている。その視線はメレディスの体にからみつくような熱が込められている。
どうやら彼は他の女性と会話することでメレディスの気を惹こうとしているらしい。
なにせメレディスは、初めて社交界デビューした時から彼に話しかけられて以来、彼から逃げることしか考えていない。彼女は彼から身を隠すためにひたすら人目に付かない陰に隠れ続けていた。
だからだろう。押してダメなら引いてみようとルイスは考えたらしい。
冗談ではない。メレディスは、天涯孤独な彼女を哀れみ、我が物顔で威張るしか脳のない傲慢なルイスが大嫌いだった。その彼に嫉妬するなんて天と地がひっくり返っても有り得ない。