今宵は天使と輪舞曲を。
一刻も早くここから逃げるべきだと本能が告げている。
けれども会場は皆が踊っている。会場から抜け出すための道は閉ざされ、ここから抜けようにも抜け出せない。
ああ、どうしよう。
ルイス・ピッチャーなんて相手にしたくもないのに!!
メレディスは今度こそ深く目を閉じた。
「ねぇ、貴方は踊らないの?」
「えっ!?」
てっきり野太い声が自分を罵りに来たのかと思ったのだが、思いのほか可愛らしい声が聞こえてメレディスは驚いた。
慌てて目を開ければ、そこには今夜の主役であるキャロライン・ブラフマンが立っていた。
信じられない。
あろうことか今夜の主役である彼女が透明人間の自分に声をかけてきたのだ。
「わたしは……あの二人以上に目立ってはいけないのよ」
瞬きを繰り返しながら、メレディスは静かに口を開いた。
それから会場の中央で紳士と踊っている美しい従姉のジョーンと、ジョーンから少し離れた場所にいる、真っ青な顔で俯いている我が子と一緒に踊ってくれそうな紳士に取り合おうとしている必死な叔母の姿に目を向けた。
メレディスは叔母の愚かな考えが手に取るように分かった。彼女はヘルミナが紳士と踊ることで、自分の娘がいかにダンスが上手で気品に満ち溢れているのかをブラフマン家に示そうとしてるのだ。