今宵は天使と輪舞曲を。
キャロラインはきっと透明人間になりたがっている自分がどこの誰かは十分知っているだろう。
だからメレディスはあえて、目立ちたがり屋の叔母たちに視線を向けただけで名乗らなかった。
「でもあの三人以上に目立つのは困難だと思うわ」
彼女はやはりメレディスがデボネ家の厄介者だということを知っていた。右肩を上げて茶目っ気たっぷりにそう言った。
言われてみれば、そうかもしれない。
メレディスは少し考えてから会場を見渡し、彼女の意見に頷いた。
従姉のジョーンはブラフマン家から注目を浴びようと躍起になって踊っているし、叔母は紳士に取り合おうと顔を真っ赤にしている。
叔母と対照的な表情をしているのが従妹のヘルミナだ。彼女は体に巻きいているコルセットに相当悩まされているらしい。顔面真っ青になっていて、今にも倒れそうだ。
見方を変えればなかなか面白い光景だ。
「たしかにそうね」
可愛らしいキャロラインの口調にメレディスの口元が緩む。気がつけば自然と笑みが溢れていた。こんなに穏やかで楽しいと思えたのは何年ぶりだろうか。
メレディスは嬉しくなった。
もう傲慢で独りよがりの男のことなんて頭の片隅にもない。
メレディスは自分の置かれた立場もすべて忘れ、隣にいる気さくで可愛いキャロラインと談笑を交わした。
「ほらね。だからきっと貴方がダンスをしても彼女たちは何も思わないわよ」