今宵は天使と輪舞曲を。
雰囲気から察するに、彼女はこちら側とはできるだけ関わりを持たないよう、努めているように見える。
そうなれば人間とはおかしなものだ。
距離を置かれると逆に気になってしまう。
何より、彼女がキャロラインを見た時の表情も気に入った。彼女は妹をひと目見るなり、赤い唇を緩め、微笑んだのだ。それは自分たち異性に向けるための媚びへつらう表情ではなく、ひとりの人間に対する敬愛の微笑だった。
照明に照らされた銀色にも似た色素の薄い金髪。白い肌と濡れたような赤い唇。少しばかり体調が悪そうに見えるものの、逆にそれが男としての保護欲をそそる。
――ああ、彼女の目はいったい何色をしているのだろう。どんなふうに声を上げて笑うのだろう。
とにかく、ラファエルは壁際に立っている女性が気になって仕方がなかった。
それからというもの、階段下に着いたラファエルの気分はとにかくそぞろだった。集まってくる貴族たちの会話をことごとく聞いていおらず、兄のグランには茶化すような視線を寄越されたりもした。
いったい自分はどうしてしまったのだろう。なぜ、これほどまでに壁際にいる女性が気になるのか。ラファエルの思考は常に彼女のことばかりだ。
しかしそれは妹のキャロラインも同じだった。彼女は今夜の主役だというのに、あろうことか父、モーリスとの儀式という名のワルツを踊り終えると一目散に駆け出し、壁際にいる彼女に向かったではないか。