今宵は天使と輪舞曲を。
妹に先を越されたラファエルは、レニアに失礼しますとひとこと添えるなりキャロラインの後を追う。
もちろん、レニアはラファエルの好き勝手を許すつもりはない。彼女が今夜のパーティーを開いた理由は、名目上キャロラインの社交界デビューではあるものの、本当の目的は自分とグランの花嫁候補探しだということを知っていた。
当然ラファエルやグランが彼女の側から離れることについては快く思っていない。しかし他の貴族たちに囲まれている中では、たとえどんなにラファエルが好き勝手をしたとしてもお小言のひとつも言えるはずがないことを彼は知っていた。
案の定、彼女の鋭い視線が背中に突き刺さるものの、ラファエルの耳を痛めることはなかった。
おそらく明日は耳にたこができるほどレニアのお説教が待っているだろうが、今はそれどころではない。とりあえずはレニアに命じられたどおり、会場から逃げないだけ大目に見てほしい。
ラファエルは母親から投げかけられる鋭い視線を無視して壁際にいる女性へと向かった。
とはいえ、貴族たちの目を潜り抜けるのは困難だった。この場に集まった女性のことごとくはラファエルとグランに話しかけてもらえるのを今か今かと待ち望んでいる。熱の隠った視線がこちらに集中していた。
気になる女性にさえ易々と声をかけられないなんて、なんと息苦しい世界だろうか。