今宵は天使と輪舞曲を。
ラファエルはふつふつと込み上げてくる苛立ちを抑え込み、全身に絡みつく視線から逃れるために物陰に隠れながらやり過ごした。
なんとか目的地に辿り着いた時にはすでにキャロラインは彼女と打ち解けていて、談笑を交わしていた。
なんて柔らかな声で笑うのだろう。
耳障りのよい彼女の声がラファエルの胸をくすぐる。
しっとりとした鼻に抜ける声は物静かで控え目であるものの、どこか凜とした雰囲気も伝わってくる。彼女の声をもっと聞きたいとラファエルは思った。
やって来るラファエルを目の端で捉えたキャロラインは、まるで自分が彼女の元にやって来るのを知らなかったとでもいうように、わざとらしい声を上げてラファエルの名を呼んだ。
ありがたいことに彼女の元に向かっている自分の存在を悟られてしまったではないか。ラファエルは落胆のため息をついた。
それというのも、彼女はラファエルと距離を置きたがっていたように思えたからだ。できることなら彼女に逃げられたくはない。ラファエルとしては驚かすことなく妹と彼女の会話の中に自然を装って入りたかったのだが、その計画はものの見事に阻止された。
これまであらゆる女性から逃げ回っていた自分が彼女には逃げられたくないと思うとは――。ラファエルは今まで想像さえもしなかった心の反応に驚いてもいた。
彼女は、キャロラインを引き金にして、斜め後ろにいるこちら側に振り向き、ラファエルを視界に入れた。