今宵は天使と輪舞曲を。

 華奢な腰を引き寄せ、後れ毛に指を絡ませながら赤い唇を自らの口で塞ぎたい。それから女性らしい胸の膨らみに手を滑らせ包み込み、ドレスを脱がせて――。



「ねぇ、ラファエル。彼女すごく綺麗よね」

 唐突なキャロラインの話し声によってラファエルの思考が途絶えた。

 ラファエルは巡らせていた自分の思考について驚いていた。なにせ彼自身、女性との関係性についてここまで想像力を働かせたことがなかったのだ。

 もちろん、ラファエルだって人並みの男性だ。どんなに女性を拒んだとしても肉体的欲望を満たすための行為はあった。しかしそれ以上の関係を彼から求めたことはなかったし、そういう生業の女性としか体の関係を持つことはなかった。それなのに――今はどうしたことか、目の前にいる女性に欲望を抱いている。ラファエルの体のあらゆる部分が固くなりつつあった。


 さて、キャロラインはいったい何を訊ねてきたのだろうか。

 彼女の魅力に囚われたラファエルの思考はあっという間にどこかへ旅に出てしまう。これは今までなかったことだ。

 青色に変化している彼女の目はラファエルの言葉を待っている。期待と不安が交差し、瞳が揺れていた。

「君は美しい」

 意図もせず、ラファエルの口からさらりと飛び出した賞賛の言葉は、どうやら正解だったようだ。キャロラインは満足げな面持ちで深く頷いてみせた。

 そして彼女は、というと――信じられないと言わんばかりに顔を(しか)めている。


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