今宵は天使と輪舞曲を。
「貴方はわたしといるべきではないわ」
彼女は小さな声でそっと呟いた。ため息が入り交じったその声は注意して聞かなければ人々の喧噪や音楽に掻き消されてしまうほどとても聞き取りにくいものだった。
「なぜそう思うんだい?」
ラファエルはできるだけ優しい声音で訊ねた。そうしたのは少しばかり彼女が神経質になっているように思えたからだ。
「だってわたしは……」
わざわざ口にしなくても見れば分かるでしょう? まるでそんな言葉が彼女の口をついて出てきそうだ。
彼女は両の手のひらを上に掲げ、ぐるりと目を回した。彼女が自身の容姿について快く思っていないというふうに――。
なぜ、彼女は自分の容姿を卑下しているのだろうか。
たしかに、髪は艶が少ないし顔色も少しばかり悪いように思える。しかし彼女の透き通ったねずみ色の目は感情と共に色が様々に変化し、見ていて飽きることがない。それに唇は愛らしいほど魅力的に見える。
性格だって申し分ないほど、そこら辺にいる女性とは比べようもなく擦れていないと思う。
ラファエルは今までこれでもかというほど人間の醜い部分を目の当たりにしてきた。それは長年続いているブラフマン伯爵家として、領地を支えてくれる領民という、この手に治まりきれないほどの命を預かっている一家の男としての由縁なのかは分からない。