今宵は天使と輪舞曲を。

 彼もまた与えられた領地の面倒もよく見ているし、兄のグラン同様に好奇心旺盛だ。ラファエルもやがて兄のように立派に事業を為し遂げられるだろう。



 二人とも容姿も性格だって申し分ない。

 それなのになぜ、この息子たちは聖職者になりたがるのだろうか。

 レニアは過去、社交パーティーでの息子二人の立ち振る舞いを思い出していた。

 兄のグランは会場に着くなり、他の紳士と合流すると政治について語りはじめ、初めから女性などいなかったことのように振る舞った。弟のラファエルも女性に話しかけもせず、颯爽と中庭へ姿を消す始末だ。



 とにかく、彼らは女性と関わり合いたくないらしい。それこそが問題なのだと、レニアはうなった。



「レニア。まだ結婚なんていいじゃないか。この子たちは仕事熱心なんだよ」

 隣に座っていた彼女の夫、モーリス・ブラフマンが初めて口を開いた。

「モーリス!」 

 彼女の怒りの矛先が息子ふたりから発言したばかりの夫のモーリスへと変わる。


 レニアはふくよかな腹をした夫を見やった。

 その体型は過去にハンサムだった頃とはまるで別人だ。

 しかし、茶色い目は昔と少しも変わらずに輝きを放ち、相手の心を見透かすかのように澄んでいる。


 モーリスの人を見る目はたしかだし、経営者としても成功している。


 ――とはいえ、過去にあった経営者たる威厳はいったいどこに置いてきてしまったのか。性格は年齢を重ねるごとに丸く温厚になっている。

 だから余計に自分は癇癪を起こしやすくなったのだとレニアはさらに深い皺を眉間に刻んだ。




 ラファエルは肩を窄め、グランはにやりと笑ってこれが好機だと理解した。

 部屋から出て行こうと腰を上げる。しかしレニアは彼らの退出を許さなかった。




「もう! どうして貴方たちはことごとく女性から尻尾を巻いて逃げるんです!」


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