今宵は天使と輪舞曲を。

 たしかに、ついさっきまで想像していた男性とのベッドシーンはロマンス小説なら付きものだ。――とはいえ、メレディスはこれまで自分を物語のヒロインに置き換えたことなんて一度たりともなかった。


 それなのに、相手がラファエル・ブラフマンだと頭が勝手に妄想してしまう。


「もう! わたしはいつからこんなにふしだらになってしまったの!」

 メレディスは顔をしかめ、自分を罵った。

 それから淫らな考えを頭から振り切るために目眩を起こしそうになるくらい強く首を振る。

 とにかく、今は朝で日が昇っている。彼女たちが起きたかもしれないし、調理場でいったい何が起きているのかを確かめなければならない。

 メレディスは思考をラファエルから遠ざけるため、着ていたドロワーズを勢いよく脱ぎ捨て、灰色のスカートにエプロンといった見慣れた服装に着替えた。問題の調理場へ足早で向かう。



 斯くしてメレディスがやって来た調理場で見た光景は驚くべきものだった。早起きとは一番縁の遠い彼女、ヘルミナ・デボネが起きていたのだ。

 青いドレスに身を包んだ彼女は身を屈め、床に()(つくば)っていた。

 昨夜のヘルミナはとても大変だった。会場でメレディスが呼ばれた頃にはとうとう嘔吐きはじめていた様子で、エミリアはまだ皆の注目の的になりたがっていたジョーンを無理矢理、馬車に押し込めると急いで帰宅したのだった。


< 62 / 358 >

この作品をシェア

pagetop