今宵は天使と輪舞曲を。
彼女の後ろ姿があまりにも苦しそうで、とてもではないがこれ以上彼女を責める気になれない。
メレディスは、ぐったりと項垂れながら立ち去っていく彼女の背中をちらりと目の端で捉える。気の毒だと思ってしまう自分に対して小さく頭を振った。
ややあって割れた食器の破片を片付け終えた頃。女性特有の耳障りな声が調理場に近づいてくるのを聞いた。
さあ、今日のデボネ家ではいったいどんな無理難題をけしかけてくるのだろうか。メレディスの体は自然と強張ってしまう。
「お母様、わたし。昨日は最高の夜だったわ。フェルディナンド卿と一緒に踊ったのよ……」
ジョーンはうっとりと目を閉じたまま姿を現した。彼女はどうやら思いのほか昨夜、共に過ごした紳士を気に入ったようだ。胸に手を当て、余韻に浸っていた。
「ジョーン、男性は顔ではないわ。もちろん、顔も大切ですけれど。でも彼は子爵よ。伯爵ではないわ」
ジョーンに続いてやって来たエミリアは意地の悪そうな細い眉を吊り上げた。彼女の言葉でせっかくの気分は台無しだ。ジョーンは母親を睨んだ。
「なんて顔をしているのです! せっかくの美人が台無しじゃないの。いいこと? 三日後のパーティーこそはきちんとするの。そして今度こそブラフマン伯家とお近づきになるのです!」