今宵は天使と輪舞曲を。

 彼女が手にしているものが何なのかを理解した瞬間、メレディスは息が止まった。

 体中の血液が奪われていくような感覚になる。鏡を見なくても顔面が蒼白になっていくのが自分でもよく分かった。

 だって、それ(・・)は本来、彼女が持つべきものではない。

 メレディスはどうして彼女がそれを持っているのかが分からなかった。

 ジョーンが手にしていたのはエメラルドのブローチで、よほどの名だたる芸術家が作成したのだろう装飾部分にはとても繊細な月の雫の形が施されていた。


 このブローチはメレディスが生まれた時に父から母へ贈られたもので、彼女にとっても特に思い入れのあるものだった。


 それだけに、デボネ家の叔母たちにけっして見つからないよう、彼女たちが滅多なことでは出入りしない掃除用具ばかりが置いてある湿った薄汚い倉庫の中に仕舞っておいたのに……。


 倉庫なら安全だと決め込んでいたのが悪かった。ジョーンはメレディスが考えていたよりもずっと質が悪かった。


「まあ、綺麗なエメラルド。そんなものいったいどこにあったの?」

「メレディスが隠していたのよ。こんな高価な品物、メレディスにはもったいないわ。きっと高値で買い取って下さるんじゃないかしら?」

 ジョーンの提案に、エミリアは青い目を輝かせ、大きく頷いた。


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