今宵は天使と輪舞曲を。
「そうね、そうしましょう。ああ、でも待って、気が変わったわ。今日は私自らが取引きをすることにいたしましょう。それからジョーン、今日はとても気分が良いわ。朝食は外で食べましょうか」
ジョーンから受け取ったブローチを高々と掲げ、エミリアは面白可笑しそうに笑っている。唇が醜く歪むその様はまるで悪魔のようだ。
「返して! それはとても大切なものなの!!」
メレディスはどうにか叔母たちに思い直してもらおうと必死だった。たとえトスカ家のすべてのものを失ったとしても、このブローチだけはどうにか手元に置いておきたかった。
大切な両親のブローチ。メレディスが誕生した時の証。ふたりに愛されていたという証拠の品。
たとえ叔母たちからの仕打ちがどんなに辛くても、どんなに悲しくても、このブローチを眺めることでメレディスの心はいくらか慰められていた。
このブローチさえあれば、世界にただひとりきりになってしまったけれど、彼女が生きていることを神様から許されているように思えた。
「お願い、返して!」
メレディスの必死な姿が余計に彼女の毒心を焚きつけたのだろう。エミリアの赤い唇はいっそう大きく歪んでいた。
耐えきれなくなったメレディスはエミリアに掴みかかる。けれども日頃から栄養のあるものばかりを口にしている健康的な彼女たちに敵うはずもなかった。
メレディスの体は無惨にも床に突き飛ばされた。