今宵は天使と輪舞曲を。
「煩い子ね! この家に住まわせてあげている恩を忘れたの? 恩を仇で返すなんて礼儀知らずもいいところね」
叔母は調理台にあった大きな鍋を持ち上げるなり、崩れ落ちたメレディスに向かって勢いよく傾けた。中にはたっぷりと水が入っていたものだから、メレディスはあっという間に全身が水浸しだ。加えて体に掛けられた水は一晩中夜気に触れていたことでとても冷たくなっている。体の芯を凍らせるほどだった。
「いつまでそうやって寝ているのです! ここもきちんと掃除しておきなさいよ!」
ひどく耳鳴りがする。去っていく彼女たちの醜い笑い声がメレディスの頭の中で木霊する。
あまりの苦しみに襲われたメレディスの頭が割れそうなほどに痛む。
メレディスにとってこれが初めてではなかった。それだけに、メレディスはよほど大切な物は彼女たちの目に触れないようにしていた。彼女の心が悲痛な叫びを上げる。
半年前――。彼女の愛馬、クイーンの時もそうだった。
メレディスが十歳の誕生日に父親から与えられた愛馬で、慈愛に満ちた大きな黒い目と全身ミルク色の美しい毛並みをもつクイーンは、名前のとおり女王のように光輝いていた。
クイーンはメレディスにとって親友同然で、この屋敷に来てからもずっと世話をしてきた。
しかし、叔母は馬には維持費がかかるとメレディスの意見もそっちのけですぐに売り飛ばしてしまったのだ。