今宵は天使と輪舞曲を。
そんな冷たい家庭なんてうんざりだ。
世間でいうところの良識ある妻の役目なんていらない。
ラファエルが妻に求めるのはただひとつ。仕事でくたくたになって帰宅した時に笑顔で出迎えてくれさえすればそれで良い。笑顔の絶えない、あたたかな家庭を築きたい。
そして自分は愛する妻のみをただひたすら愛しぬくのだ。
「ラファエル、もう女性から逃げるのはおやめなさい」
ラファエルの心情を知るはずもないレニア・ブラフマンは、隣に座って静かに愛する家族の様子を見守る夫モーリスに二度、三度と優しく腕を叩かれながら、例によって口を開いた。
ゆったりとした五人掛け用の大きな馬車が不規則に揺れている。
息子二人に相応しい花嫁を探すため、本人たちよりも社交界に没頭している彼女は鋭い剣幕で三人の子供たちを見ている。
どうやらレニアはラファエルがひとりの女性に興味を惹かれていることをまだ知らないようだ。
それというのも、彼女はブラフマン邸での社交パーティーを無事に終えたの翌朝、「子供たち三人が揃いも揃って会場の片隅に固まっていた」と非難していたからだ。
彼女は次男が女性といたという事実には気づいていなかった。
それはかえって好都合だとラファエルは思った。おかげで母親に邪魔されず、好きなように振る舞える。だからラファエルはレニアには何も告げず、いつものように言われるがまま受け流していた。