今宵は天使と輪舞曲を。
「もちろんだよ、母さん」
ラファエルが大きく頷いて請け負った。
「まあ、いったいどういう風の吹き回しなのかしら」
社交界に出席するたびに女性から逃げていたラファエルの口からまさかそのような言葉が出ようとは――。
数日前に出会ったレディー・トスカとの一部始終を知らないレニアはいったい自分の息子に何が起きたのかというように、ぽかんと口を開けたまま、ラファエルと同じ緑色に縁取られた目を見開き、瞬きを繰り返すばかりだ。
対するキャロラインは全容を知っているグランと目配せして声を押し殺し、笑っている。
なんだろう。この家族といるといかにも自分が愚か者になったように感じる。
ラファエルは眉間に皺を寄せ、静かに笑っている兄妹に向けて不快感をあらわにした。
彼の機嫌が損なったのを知った兄妹は笑うのを止めるとそれぞれ肩を竦め、キャロラインに至ってはアンバー色の目をぐるりと回して戯けてみせた。
たしかに、彼女と出会う三日前ならひとりの女性を追いかけるなんて考えもしなかったことだ。
今のラファエルの気分は禁欲から一気に転じて放蕩者になった気分だ。
ああそうさ。
どうせぼくは道楽者だ。
笑いたければ笑うがいい。
とにかく、今夜はメレディス・トスカと距離を縮めるつもりだ。
会場で円舞曲を踊るまではいかなくとも、会話できる程度には進みたい。