今宵は天使と輪舞曲を。

 そのためには何としてでもふたりきりになる必要がある。

 果たしてどこにいても人目につく自分が会場でどう立ち振る舞えば彼女とふたりきりになれるのかはさっぱり分からないが、それでもやるしかないのだとラファエルは怖じ気づきそうになる自分を奮い立たせた。





 ――多くの愚かな貴族たちは、身分は人間や人柄の評価だと思い込んでいる。それは今回、社交パーティーの主催者である彼、ドナルド・グスタフ伯も例外ではなかった。

 グスタフ伯の身分は、元々は男爵の地位だったが、ここ最近になって彼の手がけた事業がことごとく成功し、今や伯爵にまで上り詰めた。彼は急成長を遂げた成金だ。

 そういうこともあって、彼は外面ばかりを気にする。グスタフ伯は自分よりも優位にいる貴族たちには媚びへつらう側の――いわゆるラファエルが一番嫌う人間だった。


 その彼にとって、このパーティーは自分がどれほど優れているのかを人々に知らしめる絶好の機会だ。

 そしてあわよくば他の貴族と顔見知りになり、より事業を拡大させるという魂胆なのは見え見えだ。

 ドナルド・グスタフは(したた)かな男だ。

 しかし、ラファエルと通じる所もある。彼一代で事業を成功させるにはそれだけの柔軟な考え方が必要だ。古びた昔ながらの考え方を脱ぎ捨て、新しい考えを取り入れなければまず経営は成り立たない。

 彼は、より柔軟な考えを持っているのはたしかだと認めざるを得ない。


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