今宵は天使と輪舞曲を。
§ 02***美しい使用人。
エミリア・デボネは、使用人のごとく慣れた手つきで屋敷中の床を拭いて回る年頃の娘を見下ろしていた。
彼女の服装は実に見窄らしい。
裾が解れた足首まである灰色のスカートに白のエプロンを身にまとい、床に擦りつける雑巾を抑えながらひっきりなしに動かし続ける、枝のようにほっそりとした手はあかぎれを起こしていて、赤い血が滲んでいる。
屋敷中の掃除を一手に引き受ける彼女は煤と埃で汚れており、見るからに小間使いふうの服装をしている。
それなのに、彼女の目鼻立ちには気品と高潔さが感じられた。
頭の上で固く結ばれていてもわかる銀色にも似た金髪。
どんなに庭仕事をこなしてもけっして日に焼けることのない透明な肌は若さ故に張りがあり、瑞々しい。
強い意思を感じさせる細い輪郭。長い睫毛に縁取られている大きなグレー色の瞳は知性が見え隠れしている。
それだけではない。すっと伸びた鼻筋の下にある小振りな赤い唇だって年頃の女性のものだった。
――そう、彼女はけっしてデボネ家の召使いではない。けれどもエミリアの娘でもなかった。
小間使いの真似事をしているメレディス・トスカは、今は亡きエミリアの兄と彼の妻の間にできたひとり娘だ。
たしかに、彼女には兄の面影が垣間見える。しかしその殆どは母親の容姿を受け継いでいた。
メレディスの母親は貴族たちの中でもっとも美しいと評判の娘だった。