今宵は天使と輪舞曲を。

 彼の性格うんぬんはさておき、グスタフ邸が良い例だった。今流行りのヴィクトリアン調の中にゴシックを取り入れたとして、貴族たちの中でもたいへん珍しいと有名だった。

 屋敷の外観にある尖塔(せんとう)や四つ葉のクローバーをイメージしたカトルフォイルデザインの床やタペストリーなどをはじめ、中でも湖に面している庭は非常に好評だ。

 おそらく彼は今後流行するであろう事柄を瞬時に見分ける分析力、そして分析した内容を直ぐさま行動に移す実行力もあるようだ。

 でなければ男爵から一気に伯爵の座へと、子爵を抜いて一段飛ばしで上がることはまずできまい。


 ラファエルは両親と兄妹と共に執事(バトラー)に案内される中、見事なまでの寸分も違わない模様が施された壁や天井をちらりと目で追いながら、会場に向かった。

 会場に向かう回廊もやはり流行に乗っ取っている。間隔をおいて飾られている花瓶は幾何学模様の細やかなデザインが施され、シャンデリアも豪華な造りではあるものの、しかしそれでいて厳かで庶民的なヴィクトリアン調のシックな雰囲気だった。

 一際大きな扉を開けばそこはすでに会場で、人々の喧噪とむせ返るような熱気に加えて香水の強い匂いがラファエルを襲う。

 ブラフマン家が入室するなり、人々の熱が隠った無遠慮な視線が自分たち一家に突き刺さる。
 会場は十分な広さがあるものの、こうして集う貴族たちの数には劣るように感じた。


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