今宵は天使と輪舞曲を。

 会場のそこここから、くすくすと忍び笑いを漏らす貴婦人たちの声が聞こえる。

 相変わらず彼女たちの装いは華々しく、美しい。
 しかし、彼女たちの外見と内面がけっして等しいとは限らない。

 彼女たちの視線は主に、社交界で話題を集めている自分たちグランとラファエルの二人に降り注いでいる。あからさまに熱情的な視線を投げて寄越す彼女たちが持つ扇で隠されている赤い唇からはいったいどんな醜い言葉が発せられているのだろう。

 会場は相変わらず陰湿な空気が立ち込めている。これだから社交界は苦手だ。


 ラファエルは今すぐこの場から立ち去りたい衝動に駆られるものの、ここで背を向けては今夜の目的が果たせない。彼はどうにか怖じ気づきそうになる自分を奮い立たせ、会場に目を走らせた。

 おそらく、メレディス・トスカは今夜もまた壁際にいるに違いない。会場の四方八方に目を配らせると――いた。彼女だ。

 ラファエルが思ったとおりだ。彼女はやはり、けっして脚光を浴びることのない階段の斜め後ろ側――殆どと言って良いほど照明が当たらない、薄暗い壁際にいた。

 彼女が立っている場所はわざわざ目を走らせなければまず見ることはないだろう。

 彼女は、頭上から吊された鉢に植えられたアイビーのカーテンに隠れていた。


 抱きしめれば壊れそうなほどにコルセットを必要としない細くて華奢な体。頑なに引き結んだ小さな唇。硬く結い上げられた窮屈そうな長い色素の薄い金髪。


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