今宵は天使と輪舞曲を。
もし、それが事実であるならば、以前よりも彼女の顔色が優れないことにも納得がいく。
ああ、なんということだろう。なぜそのことを考慮しなかったのか。自分の浅はかな考えにラファエルは胸を短剣で貫かれたような気分になった。熱が消え失せ、体の芯から冷え切っていく……。
早く彼女の所に行って真実をこの耳で聞きたい。
しかし、今ここであからさまに動けば、いろいろと面倒なことが起きる。
ラファエルは内心焦りながら、どうすべきかを思考する。その中で、会場の公の場にいた彼が動いた。ドナルド・グスタフ伯爵。今夜開かれた社交パーティーの主催者だ。彼は貴族たちの輪の中から抜け出すと、ゆったりとした長い足でブラフマン家の元へやって来た。
「ようこそおいでくださいました。お会いできて光栄です、ミスター・ブラフマン」
彼は長身の体をふたつに折り、一礼した。
流石は一気に貴族界へとのし上がっただけのことはある。ラファエルたち同様、漆黒のドレスコートに身を包む彼は礼儀を知っている。
しかし茶色い目に野望の光を宿しているのをラファエルは見逃さなかった。あわよくば自分たちブラフマン家と手を組み、彼の事業をさらに広げようという魂胆は見え見えだ。
長身にして野心家である彼はなかなかのハンサムだ。たっぷりと豊かな金髪は後ろに撫でつけられており、彫りの深い顔立ちが強調されている。