今宵は天使と輪舞曲を。
長身の彼は親戚のベオルフだ。
まったくどうして誰もぼくを放って置いてくれないのだろうか。ラファエルは不快な気持ちを押し込めると従兄のベオルフと向き合った。
ベオルフは、これ見よがしに瞳の色と同じ深緑色のイブニングドレスに身を包んだ赤毛の女性と腕を組んでいる。
「叔母から聞いたよ? また女性から逃げたそうじゃないか」
放って置いてくれと口を開けたラファエルは、しかしそれ以上の言葉が頭から抜けた。代わりに眉間に皺を寄せて従兄を見るばかりだ。
それというのも、彼の腕に絡めている彼女が、ラファエルはどうにも以前従兄が連れ歩いていた女性とは違う人物のように思えたからだ。
たしか、一ヶ月前に連れていた女性はもう少し背が高くなかっただろうか? それに赤毛ではなく、金髪だった気がする……。
ラファエルの表情を察したベオルフは静かに口を開いた。
「彼女はミス・オリアンディア・グレイワーズ。三週間前に知り合ったんだ」
誇らしげにそう言った従兄の隣では薔薇色に染めた頬を緩め、ミス・グレイワーズは小さく会釈した。
なるほど。道理で三日前にブラフマン家が主催した社交パーティーの親戚筋で唯一、彼の姿を見なかったわけだ。
「三日前、我が家で君の姿が見えなかった理由がわかったよ」
ラファエルはやれやれと首を振ってみせた。