今宵は天使と輪舞曲を。
「そうだよ、ぼくに付き添い、夜には夫婦としての慎ましやかな営みをしてぼくを楽しませてくれるだけでいいんだ」
大きく頷いた彼は愚かにもあからさまな視線を彼女の胸元に投げかけた。彼の視線を辿った彼女の顔がみるみるうちに赤く染まっていく……。
彼女の表情からして激昂しているのが簡単に見て取れる。しかしルイス・ピッチャーはなかなかの大物だった。顔を真っ赤にした彼女を、彼はまるで違う解釈をしたのだ。
「ミス・トスカ。ああ、君は美しい。こんな場所でなければ、とさえ思うよ」
ピッチャー卿は派手な手振りでここぞとばかりに彼女の容姿を褒め讃えはじめた。
とうとう顔中が赤黒く染まった彼女は怒りに唇を噛みしめ、肩を振るわせる。
これは大変だ。高いヒールが彼の足を踏みつけてしまう前にどうにかしなければならない。
ラファエルは今でさえも自信たっぷりに話すピッチャー卿の姿に内心にやりとした。彼女の踵が彼の足にのめり込む姿は胸がすっとすること間違いなしだ。
しかし、ここは貴族たちが集う場だ。人の目が多すぎる。
仮にもし、この場でミス・トスカがピッチャー卿の足を踏みつけてしまえば、彼は自尊心を傷つけられたと怒り、大声で彼女を罵る可能性がある。そうなれば彼女の立場が悪くなる一方だ。