今宵は天使と輪舞曲を。
メレディスにとってワインを口にするのは初めての試みだったが、とにかく今は喉が渇いていたし、何より、落ち着かないこの気持ちを和らげたかった。
しかしどうやらそれは失敗に終わったらしい。
ワインは口に入れるとずっと苦かったし、ひと息に飲み干したことで、塊になったアルコールの熱が食道を一気に通り抜ける。焼けるような痛みと熱が胃を覆う。
ワインはあまりにも苦くて、あまりにも熱い。思わずメレディスが咳き込むと、彼は空になったグラスを彼女の手から優しく抜き取り、それから丸まった背中を撫でた。
暫く咳き込んでいると、胃を覆う熱は頭に昇っていった。やがて彼女の頭脳は焼けつくような炎に包まれる。同時に体がかっと熱くなった。
『君は何もしなくていい』
『夜には慎ましやかな夫婦の営みをして、ぼくを楽しませてくれるだけで――』
熱を持つ脳裏に木霊するのはピッチャーの侮辱する言葉だ。
「信じられない! ルイス・ピッチャーはわたしを娼婦か何かと勘違いしているわ!!」
時間が経つに連れて、彼が口にした様々な侮辱の数々が怒りとなって蘇ってくる。ワインの力が加わってか、メレディスの口からピッチャーに対する罵声の数々が飛び出す。淑女らしからぬ態度ではあるが、すっかり頭に血が上っているメレディスには自分の隣にいるのがいったい誰なのかさえも分からなくなっていた。彼女の思考は現状をわきまえるほどの理性が残されていなかった。