内部破綻の殺人鬼
ああ、やはり彼は変わってしまった。
我が儘を聞いてくれる人がいて、気兼ねなく殴り合える友ができて、寂しくなったら黙って傍に居座る厄介者も現れて、彼の周りはかなり平凡になりつつある。
どこまで絆されたのだろう。
「……つまらないなあ」
「お前の詰まる詰まらないで生きてるわけじゃないんでね」
「うーん…彼らがいなくなれば、また元にもどるかい」
バキッと鋭い音がした。
あれれーと顔を上げて見ると、彼の目の前にある壁沿いの本棚が枠組みごと倒壊し、がらがらと書物が雪崩を起こしている真っ最中である。
やっぱりダメか。
「そうだよね、科学実験みたいに論理的に納まる代物だったら、人の精神なんてそう神秘的じゃないんだけれど」
「昔から思っていたが、お前人の事なんだと思ってるんだ」
「お も ち ゃ」
最低だな、と彼は蔑み、本棚をぶっ壊して負傷した右手を庇って、ポケットに手を突っ込んだ。
やはり痛いものは、痛いらしい。