内部破綻の殺人鬼
私の右手には、銀色に光るナイフの柄がある。
壁を砕くほどの強度を以て、しかしそれを見せつけられても彼は逃げようとはしなかった。
危機管理能力が人の、いや生物の本能に刷り込まれたものであるならば、彼の鈍い反射はそれを避けるなと『刷り込まれた』ものなのだ。
必ず自分が『傷つくように』。
彼の潜在意識は、彼自身によってそうなるように設定されている。
彼が何故、罪をわかりながら人を殺さずにはいられなくなったか。
それは自分が傷つくためには、自身の傷より他人の痛みの方がよっぽど辛く苦しいからだ。
罪を犯すように。
美徳に拝する様に。
彼の精神はそうなっている。