内部破綻の殺人鬼



私の右手には、銀色に光るナイフの柄がある。



壁を砕くほどの強度を以て、しかしそれを見せつけられても彼は逃げようとはしなかった。



危機管理能力が人の、いや生物の本能に刷り込まれたものであるならば、彼の鈍い反射はそれを避けるなと『刷り込まれた』ものなのだ。



必ず自分が『傷つくように』。



彼の潜在意識は、彼自身によってそうなるように設定されている。



彼が何故、罪をわかりながら人を殺さずにはいられなくなったか。



それは自分が傷つくためには、自身の傷より他人の痛みの方がよっぽど辛く苦しいからだ。



罪を犯すように。



美徳に拝する様に。



彼の精神はそうなっている。





< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop