内部破綻の殺人鬼
「君は大切な人こそ殺したがる、ゆえに過去を振り返れば母親や友人たちは必ず君の手に掛かっていたことを覚えているよ」
「………」
彼は紙の上で滑らす手を留めて、その紅い両眼だけで私を見上げ、憎悪を露にじっと睨みつけてくる。
そう言う風に感情を表に出すようになったのもまた、君が彼らに感化された証だ。
「実は楽しみでもある。
君がいつ、れーちゃんたちの喉に手を掛けるか」
私は紅茶を一杯口に含んだ。
淹れてくれたのは、その彼が大切にしている美人な秘書官嬢であるが、彼と同じく私が嫌いな彼女はとっても良いブレンドをしてくれたようだ。
きっついハーブ臭で鼻が曲がりそう。
「期待しても無駄だと思うがね」
「どうかな、なにせ君はざんこくだから」
おまけに少し気まぐれで衝動的だから、いつ何かがこと切れて刃を向けるかわかったものじゃない。
そう言ってからかうと、彼は存外穏やかに笑った。
「お前の言うことは否定しないが、既に奴らはその対象には入ってない」
「対象に入ってない?」
「自分の右腕を切ったって俺は喜べないからな」