風の音色
知らない森
「ん…」

ゴソゴソと動き、初めに目を覚ましたのは海斗だった
ムクリと起き上がり、辺りを見回す

「…」

隣には未だに寝ている弟の陸斗
そして、2人持っていた荷物
ただそれだけが、唯一見慣れたものだった

「森か?」

高々と伸びた木々が空を隠す
だからと言って暗いわけではない
木々の隙間から差し込む日の光で十分に明るい

「陸斗」

ひとまず、海斗は陸斗を揺さぶり、起こしにかかる
しかし、揺さぶられている陸斗…全く起きる気配が無い

「…はぁ…」

揺さぶるのを諦め、海斗は再び景色を見る
今の陸斗を起こすのは不可能なのだ
それこそ、命の危機にでも陥らない限り…

「何処の森なんだろう…」

見たところ、大きな森らしく出口のようなところは見えない
海斗は立ち上がり汚れを払う
と言っても、地面は草に覆われていて、ほとんど汚れていなかった

「陸斗、いい加減起きなよ」

ゲシッと蹴ってみるが反応は無い
海斗はため息をひとつついて、カバンの中を漁る

「あったあった」

カバンの中から、携帯電話を取り出す

(ひとまず連絡しないと)

そう思いながら、海斗はパカッと携帯を開く

「え?」

画面の上には『圏外』の2文字

(…森だからか?
それよりも、何で急に森なんかに?)

ぼんやり考えていると、横で動くものが…

「ん~~…むにゃむにゃ…もう食えねぇ~よ~」

至極幸せそうな顔をしながら寝言を言う弟の姿があった

(この状況を知る時には、そんなこと言えないだろうな…)

現状が把握出来ないまま、動くこともできない海斗
このままでは嫌なので、草の茂みの向こう側にある小川から水を汲んでくる
そして、陸斗の顔にかける

パチャン

「うおっ!!!?」

陸斗は勢いよく飛び起きた

「やっと起きた?寝すぎ…」
「悪い…って、ココ何処?」
「知らない」
「…」

海斗の即答に、何も言えない陸斗
何とも言えない空気が2人を包んだ
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