前世と今~記憶の鎖~
終わる日
~西暦2157年10月10日~

ある日の朝、布団で寝ていた老女が薄っすら目を開けた
しかし、その目はすぐに閉じられた
布団に横たわる老女は、病に伏せているわけではない
至って健康体で、昨日まで自分で歩き、ご飯も食べていた

(…もうすぐ…)

老女は、全てを悟ったというような表情で、その時を待つ
それは、死と言う最後の時
120年という長き時間を生きた老女は、死期を悟り受け入れていた
抗う素振りも無く、落ち着いている

(幸せだった…思い残すことは…)

思い残すこと…それは全く無いわけでは無いが、十分に生きたという自覚もある
これ以上、何も望むまい…と言う気持ちが上回る
脳裏に思い浮かぶ子どもや孫、ひ孫達に囲まれた生涯はとても幸せなものだった

「お婆ちゃん、朝ですよ」

娘が、老女を起こしにやって来た
老女は娘の声が聞こえているが、目を開かない
いや、もう開けない

「お婆ちゃん?」

娘が室内に入る気配を感じつつ、意識はどんどん遠のいていく
娘は何が起こっているのか、一瞬理解出来ず、その場に立ち尽くしていた

「…!!!」

漸く出た叫び声は、老女にはほとんど届かなかった
老女の意識は、真っ暗な闇へと落ちていく
その日、一人の老女が老衰で亡くなった
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