前世と今~記憶の鎖~

気付いたこと

「お母さん、何か手伝おか?」

暁にミルクをあげている最中で身動きがとれない美紗子に、優希は話しかける

「それじゃぁ、お箸とか並べてくれる?」
「ん、分かった」

優希は手際よく、お箸や食器を並べていく
背が低くてやりにくいが、慣れがそれをカバーする
優希は準備を終えると、さっさと盛り付けを始めた
理由は簡単で…美紗子がまだ暁にかかりきりだからだ

「さて…お父さんを起こしに行きますかね…」

昼寝の時間を完全に過ぎている哲夫を起こしに、優希はリビングを出る
寝室に入ると、部屋はカーテンが閉めてあり、暗闇が作り出されている

(…こりゃ昼寝の環境やないで…)

昼寝のために、誰がこんな完璧な空間を作るだろうか…
目の前で寝ている人は、本当に昼寝という規模で終わるつもりだったのか…謎だ

「お父さん、起きなよ」

ユサユサと哲夫を揺さぶるが、全く起きない
まぁ、暁の騒音顔負けの泣き声で起きないのだ…揺さぶって起きないのは想定内だ
優希は慌てることなく、フライパンとお玉を装備する
ちなみに、この装備はこの寝室にあったものだ
多分、美紗子が毎朝これで起こしているのだろう…いや、起こしている
毎朝、鉄を叩くような高音が漏れて聞こえてくるのだから

「起きろぉぉ!!!」

カンカンカンという騒音に、優希はちゃっかりヘッドフォンで耳を保護している
哲夫の耳元で音を鳴り響かせていると、哲夫がゆっくりと目を開く

「んぅ…もう朝かぁ~?」
「朝ちゃうわ!夕方や!」
「なに!?遅刻!?!」

翌日だと思ったのか、哲夫は大慌てでベッドから落ちる
その様子を、呆れながら見ている優希

「まだ日付は変わってへんよ…。それに、明日も休日や」
「ぁ…そうだった…」

脳が動き出したのか、のそのそと起き上がり、現状を把握する
何とか理解し終えると、お腹が減っている事に気付く

「夕飯はまだなのか?」
「今からや!やから起こしに来てん」

優希は装備を取り外し、呆れた視線を哲夫に送る
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