半分の心臓
自転車のカゴの中にある
カバンのポケットに
鼻を咬むのには使われない、
ティッシュを用意した。
小さなプライドを守るための日用品。
 
信号待ちのときは必ず使った。
 
鼻かむ様子から言う負け惜しみとはなんとも情けない。
 
自分でもわかっている。
 
ティッシュがもったいないことくらいは。
 
道のりは片道最短で40分。
 
信号待ちに引っかかれば、50分以上。
 
すれ違うどんな人間も認める気にはなれなかった。
 
唯、1人を除いて。
 
一番最初の入学式には父とボク、
そして同じく
第一希望に届かなかった
友人の松岡と一緒に
父の車で向かった。
 
運転席から父は
後ろにいる松岡に喋り出す。
 
「松岡君、またヨロシクな」
 
この人は、
ボクの言おうとしたことを先に言う。
 
セリフを奪われた朴念仁はどうすればいいのか分からない。
 
ただ、まごまごと助手席のシートベルトをいじっていた。
 
父はよくボクのことを勝手に代弁する。
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