墜ちた羽根
1.少年落下
夏休みの終わり頃。ある日の夜。

夢を見た。不思議な夢であった。
誰かが私の名を必死に呼んでいる。「涼那（すずな）」と。

その呼ぶ声の主は知り合いではなく赤の他人。
男の子のようだけど、私はその男の子を全く知らない。
そこは眩しくて、逆光の所為で彼の姿がよく見えない。
分かるのはくっきりとしたシルエットだけ。

彼が私に手を差し出した。私はその手を握った。
温かくて何故か泣きたくなった。
そこで私は目を覚ました。目から何かが流れている。
涙だった。まさか本当に泣いていたなんて。
夢で涙を流したのは生まれて初めてであった。

そして今日も、何時も通りになる筈だった。
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