大江戸妖怪物語
晴朗の顔はこけていた。まるで絶望の淵に立たされたような。まあ、高熱で死んだのだからしょうがないのだが・・・大きく開かれた口が、恐怖をより大きく、巨大なものにする。
顔は苦しみと恐怖でぐちゃぐちゃに歪んでいた。
眼球があった場所は2つの黒い穴がポッカリと空いていた。綺麗に繰りぬかれている。まるでブラックホールだった。
『タスケテ…』
晴朗のそんな声が聞こえた気がした。
僕は周りの人達を見る。
もう、誰も晴朗の棺へは近づこうとはしていなかった。
柩を汚いものが入っているかのような目で見つめていた。そこには『怖』の表情だけがあった。
晴朗の母「・・・見せてよかったのか、悪かったのか。それはわかりません。明日はお葬式です。晴朗もきっと、皆に会いたがっていることでしょう。ぜひ、明日もいらしてください」
晴朗の母親はそう言うと、棺の小さい扉を閉めた。
・・・・・・
僕らは家に戻ってきた。母さんは明日の準備があるらしく、遅れて帰るということだった。
神門「なぁ、雪華」
雪華「・・・何?」
神門「明日、葬式行くか?」
雪華は黙り込んだ。まあ、これが僕が言うセリフではないことは確かだ。初対面の人間の葬式に行くか行かないか、それは彼女が決められることではない。
雪華「神門が行くなら行く。あいにく、初対面の人の葬式って、情が湧かないものでな」
今度は僕が黙り込んだ。少し悩んでから、僕は結論を出した。
神門「・・・僕は行くよ」
そして、僕は自嘲気味に笑った。
神門「僕はどうやら・・・嫌いな人間に対しても、情が湧いてしまうタチらしい」
雪華「そうか・・・・・・だが・・・」
雪華は腕組みをした。
雪華「なぜ、目がくりぬかれたのか・・・」
雪華は続けた。
雪華「目玉がくりぬかれた・・・となると、誰かがくりぬいたということになるだろう。しかし、・・・あの感じだと、その目玉も行方不明だろうな」
雪華はいきなり立ち上がると、水と急須と茶葉を持ってきた。
神門「・・・何?」
雪華は僕をじっと見つめてくる。
雪華「水を沸かせ。お前の炎で」
神門「僕は竈じゃねー!」
雪華「火を起こすのは時間がかかるであろう。さあ」
神門「さあ、じゃねーよ」
雪華「喉が渇いた」
神門「・・・・・・はあ、わかったよ」
僕は掌から炎を出した。