大江戸妖怪物語
「今日は来てくれてありがとう」
晴朗の母親は涙を流しながら笑った。その顔があまりにも儚げで、僕は心にグサリと何かが刺さったような気がした。
「・・・確かに僕は・・・晴朗が苦手でした。いや、嫌いでしたね」
晴朗の母親は顔をくしゃくしゃにした。
「あの時は辛かった。本当に本当に。左目の有無であれほど侮辱されるなど。しかし・・・・・・」
少し間を置いて、僕は再び口を開いた。
「僕の傷が癒えることは一生ありません。でも晴朗の今回の死・・・。ショックでしたよ。晴朗のことを恨んでる立場で言うのはあれですが・・・。彼は悲しすぎた」
晴朗の母親は紫のハンカチを目もとに当て、涙を拭った。
「あなたの判断は間違ってはいなかったですよ。彼の、晴朗のありのままを友人に見せた。それを受け入れることができなかった彼らに問題はあると思います。すべてを受け入れることが友達というものなのに。
ですから、あなたは気を落とさないでください。間違ってなんかいなかったんです」
「本当に、あなたは・・・・なんていい子なの・・・」
「すみませんが」
突然横から雪華が話に入ってきた。
「あなたがたの話に横槍を入れるつもりはないのですが・・・お聞かせください・・・。
晴朗君の死の間際を」
「ちょッ・・・おまえッ・・・。今、このタイミングで聞く奴があるか?!横槍どころか手榴弾投げ込むなッ!」
僕は慌てて雪華の口を押えた。
「ごめんなさい、この人、あまりそういう行儀が分かってないみたいで・・・」
僕は雪華の口を押えながら晴朗の母親と距離を取る。母親から十メートルほど離れたところで、僕は雪華に話しかけた。
「雪華ねぇ・・・、今、晴朗の母親は晴朗があんな惨い死に方してショック受けてるんだよ・・・!それっを今聞くのは、頑張って埋めようとしてる傷を抉るのと同じことだ!」
「私にはわからない。人間の“道理”が。無論行儀もわからない。だから・・・」
雪華が何かを話そうとした。しかしそれは晴朗の母親によって遮られた。
「話しましょう。話したら吹っ切れるかもしれないわ」
気づくと晴朗の母親は僕たちの後ろにいた。
「立ち話もなんだから、あそこの椅子に座って話しましょう」
僕たちは近くのベンチに腰かけた。