大江戸妖怪物語
先ほど僕がしゃがみこんでいた場所だ。そして、そこは、娘の刀が振り翳された場所でもある。
水飛沫も凍り、それは芸術のようだった。
そんな光景に目を奪われている最中にも関わらず、娘は攻撃をやめない。
次は突くような攻撃だった。僕はそれも寸前へ右へとかわす。ある意味一般人が、こんな刀の名手の攻撃から逃れるなんて、そうそうはないだろう。
僕は運がいい。
その瞬間僕は河原の石に躓いてコケた。
油断禁物。その四字熟語を身をもって知る。
娘は待ってましたとばかりに、連続攻撃を仕掛けてきた。僕は吊り上げられた魚のように体を動かし、頻りに逃げる。
なんとか無傷で生還した。
隙を見て立ち上がり、振り向くと、石すらも凍っていた。
今度こそ、悪寒を感じた。
すると娘に刀の柄のほうで、背中をドンと突かれた。あまりの急な出来事に、一瞬呼吸が止まる。
悪寒のせいで、俊敏な動きが出来なかったのだ。僕は河原の石の上に大の字になる。
その上にすぐに娘が馬乗りになった。
(ヤ、ヤベェ・・・・・・)
僕は今までの過去から現在までの記憶を思い出していた。走馬灯が見える。
無抵抗になった僕を見て娘は刀を横に置いた。
そして、息を吐く。
僕に顔を寄せ、フゥーッと息をかけた。左手首、右足首、左足首・・・と、次々に動きが制限されていく。
(・・・動けない。)
見ると僕は氷のリストバンドに包まれていた。いや、手錠というべきか。拘束具というべきか。
神門「まさか・・・」
僕を抑えている手は冷たい。まるで雪の中に手を入れているかのように、冷えた。