大江戸妖怪物語
「・・・てかさ、花火見ながら聞くのもアレだけど・・・さっき眸に言ってた、『完璧な体』ってどういう意味なの?」
「あぁ・・・あれのことか。簡単だ。あいつの体は完全ではなかったんだ」
「う・・・ん、どういうことかな?」
「例えば私たちには急所があるだろ?心臓、大動脈などのことをいう。しかし、あいつは常日頃から急所を持っていなかった。あえて外していた・・・とでもいおうか」
「その急所が・・・あの赤い目玉だったって事・・・?」
「直感でわかった」
「でも、それを敵である僕たちに渡すって結構なリスクじゃない?下手したらその目玉を捨てられたり潰されたりするかもしれないのに」
「・・・目玉しゃぶりは自らの眼球を潰す真似はしない。おそらく大量の目玉を目撃したら、大抵・・・捨てるだろう。私たちのような妖力があるとすれば、燃やすか凍らせてパリンと割るか・・・。
あの邪鬼はそれを期待していたようだが残念ながら大外れ。ちなみに目玉を単体で破壊してもあいつが死ぬことはない。むしろ喜ぶはずさ、不死身になれたと。あいつの眼球に赤い目玉をはめ込み、あいつを殺さなくてはならなかった・・・ということかな」
雪華は頬杖を付きながら話す。
「あと・・・ひとつだけ聞いていいかな?」
「何だ?手短に頼む」
「僕さ・・・何か忘れてる・・・?」
「・・・・・・質問の意味がわからないのだが」
「・・・なにか、過去に大切なものを忘れてる気がするんだ。・・・勘違いかな?」
「・・・お前は記憶は失っていはいないよ」
雪華はフッと笑う。その笑顔が僕の胸を抉った。なんでこんなに脈が早いのかな。
「・・・そうだよね。まあそんな気にすることでもないか。・・・あ、雪華。スターマイン始まるって!」
僕は空を指差す。雪華も僕の手の先を見る。するとたくさんの花火が大輪を咲かせ、夜空を彩る。それは星のようにも見えた。
「ふふ・・・綺麗だな。とても・・・」
雪華を見ると切なげに花火を見ていた。なんだか消えてしまいそうな雪華は花火をジッと見つめている。
「ああ・・・そうか・・・。あの時は名前を知らず、ただ見蕩れていたが・・・あれがスターマインというものだったのか」
独り言を雪華は呟く。とぎれとぎれのその言葉は、泣くのを必死に堪えているような・・・そんな感じで。
「あの時って?」
「・・・いや、あの時はあの時だ。特に意味のない発言をしてしまったようだな」
自嘲気味に雪華は笑う。何かを隠すようなそんな口ぶり。しかし僕にはそれ以上追求する覚悟がなかった。そして雪華に質問を投げかけたら壊れてしまう気がした。
「あんなに自己主張をして大輪の花を咲かせるというのに、散る時は一瞬だな。諸行無常というものが世の常なのか」
「雪華・・・その台詞かっこいい」
「別にかっこよくはないだろ。ただの感想だ」
「かっこいいと思うけどな。僕だったら『すてき!』であっけなく終わるもん」
「それは幼稚園に入る前の子供が書く感想文と同レベルだぞ」
雪華は呆れたようにため息を吐いた。まあそのとおりなのだが。
「お、クライマックスだぞ」
雪華は空を見上げる。