大江戸妖怪物語

「行っちゃった・・・。ねえ、雪華。不動岡さんって何者なの?」

「うーむ。まあそれなりの輩だな」

「説明になってないんだけど・・・」

「説明する気もない」

「説明して!」

僕たちは言い合いながら家へと向かう。
家につき、雪華は鋏で丁寧に封を開ける。

「そんなに丁寧にやらなくても・・・ビリって開ければいいじゃん」

「お前からの手紙ではないんだ。閻魔王様直々の手紙だ。本来ならお前はこの手紙を前にしたら頭を下げなくてはならない」

「そんなに強い権限持ってんの?!この手紙が?!」

「“この”とはなんだ」

僕の首の横には鋭利な氷柱。僕は両手を上にあげた。

「・・・ごめーんね」

僕は舌をペロリと出した。殺気溢れてますよ雪華ー。

「さてさて、内容は・・・と」

雪華は手紙の内容を音読する。

「『―――――君には色々助かっている。ありがとう。唐突で申し訳ないが、私のところにとある話が入った。上野の国にて山姥が人を傷つけ、殺しているという情報が入った。信憑性は確かではないが・・・。ぜひ、確かめて欲しい――――』」

・・・・・・

二人の間に沈黙が流れる。

「・・・上野って・・・遠くない?」

「・・・武蔵国の奥だな・・・」

「だって、旅する費用とか、食糧とか・・・。そういうの用意できないって・・・!」

「えっと・・・なになに?『食糧、又その他必要なものは冥界側で用意しておく。行く準備が出来たら取りに来るといい』・・・」

負担は冥界側持ちらしい。しかし、江戸を離れることになろうとは・・・。

「・・・ということだ。もちろん、行くよな?」

「・・・まあね。頼みとあらば。でも、店を休業することになるから、予約入ってる刀だけ作ってからでいいかな?」

僕は棚に貼られている予約リストのメモ帳を横目で見やる。
あと、三件ほど依頼が入っている。できるだけ早く作らなくては・・・。

「それは止むおえんしな。予約が済み次第でかけるか」

「あら?何の話?」

母さんが僕らの話に割って入ってきた。片手には味噌田楽・・・母さん・・・。

「・・・ちょっと旅行に。上野の国まで」

「あらら。急な話ね」

「ごめんね母さん。休業することになっちゃうけど・・・」

「いいのよいいのよぉ!神門が今までに稼いだ金で食っていけるから!」

「なんかすごい複雑な気持ちなんだけど」

「じゃあ休業しても大丈夫ということで。さっさと終わらせてくれー」

雪華は欠伸をしながら廊下へ向かう

「お風呂入ります」

雪華は風呂場へ向かう。

「僕は、予約の品を作らなきゃ・・・か」

僕は作業場へ向かう。

「頑張るか!!」

腕まくりをして僕は刀の材料を掴んだ。

「上野の国かぁー・・・。山姥ってこええな」

僕は独り言を呟きながら、松の炭に火をつけた―――――。



******

ちゃぷん――――――


雪華は乳白色のお湯に浸かる。

「まったく神門は仕方のない奴だ」

雪華は肩に湯をかけた。

「記憶・・・か。神門は記憶を忘れてはいないが・・・」

雪華はブクブクと口元までお湯に浸かった。

「プハッ・・。まあ・・・」

雪華は風呂から立ち上がる。美しい曲線を描く体をタオルで拭く。

「私が・・・記憶を抉りとった・・・と解釈したほうが良いのだろうかな」

雪華は鏡に向かい微笑む。

「・・・自分の容姿にも吐き気がするな」

雪華は先程まで微笑んでいた鏡を睨みつけ、風呂の戸をピシャリと閉めた。

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