大江戸妖怪物語
山姥巻
キーンキーンキーン・・・
玉鋼を打ち付ける音が一帯に響く。
あれから幾日経っただろうか。僕は閉じこもったまま必死に刀作りに励んでいた。
唯一口にしたものは母さんが作ってくれた握り飯三つ分のみだ。
挙句に曜日感覚も忘れていた。いったい何日閉じこもっていたのか。
誰にも会わず、無心で刀を作り続ける。
「・・・完成・・・」
全ての刀が完成した。
僕は作業場から出る。すると雨が降ったのか、雫が紫陽花の花を伝う。
体中がススだらけ。僕は真っ先に風呂に入る。
「・・・つめてッ!」
風呂はなぜか水風呂で。冷えてて。母さんが風呂場の戸を開ける。
「あら神門久しぶりね。あなたのために風呂沸かしといたから」
「沸かしてないよ!水だよこれ!」
「目が覚めると思って」
「心臓麻痺おこすわ!」
まあいいじゃないの~、と言って母さんは風呂場から出てった。
「はぁ・・・」
僕は手のひらに炎を出す。そして大量の炎を湯船につける。ジュウッと蒸発する音と同時に湯気が立つ。
そして風呂は水風呂から普通の風呂場へと戻った。
「くぁあああ」
ザバンと湯船に浸かる。体の汚れは想像以上に凄く、湯船には灰がプカプカと浮いていた。
鏡を見ると目の下のクマは自己主張激しいし、ちょっとゲッソリしたように感じる。極限状態である。
体全体を万遍無く石鹸で洗い、シャンプーし、蓄積された汚れを落としていく。
僕が泡を流した時に、水と一緒に黒い泡が流れていったのは幻だと思いたい。
「神門、待ちくたびれたぞ」
風呂から上がり、居間にいた雪華は僕に話しかけた。
「もうすぐ水無月だぞ。映山紅すらもう花は萎れてしまった」
僕は予想以上に引きこもっていたのか、と自分自身心配になる。
「なんども閻魔王様から『まだか?』という連絡が来る。早く行かないとお前・・・消されるぞ」
「ヒイッ!殺されたくないです!多分明日には出発できるよ。今日中にご飯食べていっぱい寝て、・・・アズ姐のところ行って」
「最後のひとつは余計じゃないか?」
「余計じゃないやい!」
僕は台所に向かい、冷蔵庫を開ける。
「母さん、なんかすぐに食べれるものってない?」
「今作ってあげてるから待ってなさい。ハウス!」
「僕は犬か」
僕は作った刀を居間に持ってくる。桐の箱に収められた刀は新たなご主人を待っている。